広報かつら No.298 1995(平成7)年 1月
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の心境は、アルよりもずっと ずっと複雑だったに違いない と感じた。 子供のことで辛い思いをす るアルの父は、私の母とよく 似ているような気がする。私 がだんだん成長するにつれ、 私より小さい子が歩いている のに、なぜ私だけが歩けない のだろうと感じるようになっ た。母に 「どうして私だけ歩 けなく産んだんだよノと強く 当たったことがある。そのと きの母は、一瞬、戸惑い、困 ったような顔をした。その表 情を今でも覚えている。 人には誰でも、母がいるか ノ ノ・ll ら、人がいる。当たり前だが、 もし母が突然亡くなってしま ったら、どうなるのだろうか、 と考えてしまった。 私は障害者だから、日常生 活はもちろんのこと、あらゆ る面で人の助けを必要とする。 今、その人が母だと思う。私 にとっては母の存在は大きい。 しかし、アルには母がいな かった、だから夢中で捜した。 見たこともない母を想像し、 母ではないかと決めつつ、様 々な家族のお母さんに声をか け、その度に怒られたり怒鳴 られたりした。それでもまた 母を捜し続けた。それは、きっ と、母は絶対生きていると、 アルが信じていたからだと思 、つ○ 私は最近、何かを信じるこ とを忘れてしまっている。ア ルのように熟を持って信じて いる人の話を、クールに聞い てしまうのである。そういう 自分が、時々寂しくなる。も っと何かを信じてみたい。そ う思った。「信じるものは救わ れるLか。……信じてみたい な、何かを、強く。 そんな私は、信じきって、 授したアルの勇気や根性が素 晴らしいと思った。 南国なのに奇跡的な雪が降 った夜、父は知り合いの女の 人に「一日だけアルの母にな ってもらえないかぃと頼み家 に帰って来た。しかし、アル は、それを見破り「僕ね、さ っきママに会ったんだゾと言 った。そういうアルの気持ち を考えると、私は胸が熱くな った。アルと父親は、お互い に嘘をつきあいながら相手を 思いやっている。父と子の絆 は、優しく強く結ばれている と思った。 父に嘘をつくと同時に、母 に会うのは心の中だけだと思 うようになったアル。すなわ ち、アルは大人になり、母に 会えるのは奇跡と分かり、父 の思いやりに嘘をつくことで 報いたのである。 私も、奇跡が起きるように 囁った頃を思い出す。健常者 は、当然のようにしているが 私には悔しいけれどそれが出 来ない。それは、自分だけの 力で二本の足で歩くことだ。 そんな奇跡が起こって欲しか った。やはり今も、心の片隅 では、その奇跡が起きるのを 小さく願っているのかもしれ ヽllrJ ( ない。 読み終えて、一貢ごとの絵 が日に留まった。内臓がない ようで弱々しく、素朴な感じ だが、なぜか心に染みた。そ んな絵を見ているうちにアル が自分のように思えてきた。 なぜなら、アルも私も可能 性のない奇跡を追い続け、精 l杯生きていた。アルは母に 会えると信じ、私は絶対、歩 けるようになると信じた。で も、それは、お互いに不可能な ことだった。そしてアルは、 父に対する思いやりからの嘘 をつき、私は、私という人間 を生んだことを一番の心の支 えにして、私の高校生活の補 助をしてくれている母に、感 謝している。アルのようにこ の気持ちを母に伝、えられれば と田か,つ。 この童話は、ともすると自 分の障害を忘れたい私に、自 分の心のあり方を考えさせて くれた。私にとって「ミラク ル」は、忘れられない本とな った。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「、ミフクルL…奇跡 茨城県の代表作品として、 青少年読書感想文全国コンク ール応募作品となる五位渕真 美さんの1ミラクル」を読ん で…は、真美さん自身が大会 で朗読発表した生の声を、テ ープに吹き込み教育指導され る現場の先生方や、県内の各 高校生に大きな感動と生涯の 指針を与えました。 凝(5)嵩誠広報かつらl月号壷
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